追憶、責任、未来基金
こぶしの花がそろそろ終わり、気の早い人たちが夜桜の下で宴会をしていた昨日、友人といっしょにガードレールとして設置されていたステンレス・チェーンがきれいに盗まれている光景を見てきました。私はその時までこのことを知らなかったので、結構ショックでした。
盗難チェーンを買い入れる方だって何にも気づかないわけないでしょう。これだけ全国で被害が重なって問題になっているのですから、買い取る業者もうすうす分かるはず。それでも海外に流れていくというのは、何かルートがあるのでしょうか。
なんでこんな世の中になってしまったのか、と友人と嘆いていたら、出てくるわ、出てくるわ、次々に。
その朝の新聞に教育再生会議で道徳教育を小中高を通じた「正式な教科」と位置づけることで意見が一致した、と伝えられたと思ったら、今度は沖縄戦での集団自決に「強制」はなかったという文科省の検定意見で、当該事項が教科書の記述から削除されたとか。
いえ、「削除」ではありませんね。
「沖縄戦の集団自決を扱ったのは6社8点。うち5社7点に「実態について誤解するおそれのある表現」と意見が付き、「日本軍に集団自決を強制された人もいた」が「集団自決に追い込まれた人々もいた」(清水書院)などに改められた」というのですから、「削除」ではなく「書き換え」です。
上から下まで、良心をどこかに追いやった言動が目につきすぎます。
なにしろ「最高権力者」を自認するアベ首相そのものが、人の痛みにどれだけ思いを致し、どれだけ人に頭を下げられるか、はなはだ疑問だからです。
集団自決「強制」削除についても海外メディアの反応はすばやいですね。
はなゆーさんから知ったのですが、「ワシントン・ポスト」「ガーディアン」「ヘラルド・トリビューン」からオーストラリア国営放送ABCまで、この問題を報じています。
ヘラルド・トリビューンでは「日本政府が書き換えを命じた」とはっきりと言っています。
オーストラリア国営放送ABCは、
「日本政府が削除を命じた」
「(沖縄戦の)83日間の戦闘は太平洋戦争の中でも最も血なまぐさいもので、19万の日本人が死ぬがままにされたが、その内の半数は民間人だった」
「安倍晋三首相は、書き換えに異議はない、と語った」
と伝えています。
けして自分の非を認めず謝ることを知らない人はこれまで何人も経験していますが、国を率いる人がこれでは恥ずかしい限りです。
道徳教育を「徳育」と称して評価の対象にしようとするのも、これでは逆しまの世界ですね。もっとも、アベ首相、松岡大臣、伊吹大臣等々、教材は政権周辺だけでも数えきれないほどゴロゴロと転がっています。が、おそらくこうした優良最適教材は採用されないでしょう。
発言をめぐって世界中から袋だたき状態の総理。
田中宇さんにまで「日本政府は、戦後日本の最大の国是である日米同盟に基づく対米従属体制を1日でも長く維持したい」「アメリカに頼れなくなることは、不安が一杯の悪夢だと、漠然と思われている。傲慢な中国人の前で日本人が土下座するイメージぐらいしかない」と言われています。
「拉致問題、北方領土、靖国問題、尖閣問題、竹島問題は、いずれも日本にとって対米従属を維持するための外交防波堤」として永続的に解決不能の問題として扱われてきたが、「日本の対米従属の国是は、アメリカの側から壊され始めている」と田中氏は指摘。
これに加えて世界中からアベ発言をめぐるバッシング。
日本が四面楚歌の状態にあると認めざるを得ないでしょう。
これに加えて、ガーディアン紙の「直言」コーナーでは、ナショナリズムの高まりのなかで、戦力不保持と戦争放棄を明記した憲法9条を改定する動きが日本で強まっていることにアジア諸国が懸念し、日本が孤立していると指摘されてしまいました。
さて、冷戦終結後の1990年代末、米国に本部を置く世界ユダヤ人協会は、現代に残る3つのユダヤ人問題をあげました。
1.ナチス占領下での強制労働に対する保障問題
2.ナチス占領下での第三国(スイスなど)におけるユダヤ人の預金問題
3.ナチス占領下で没収されたユダヤ系市民の資産問題(これは戦後社会主義国となった政府のもとで国有化された資産に対し、旧所有者が居住地を離れていても所有権を確保すべきであるという問題)
とにかくドイツ政府と民間企業団がそれぞれ50%、総額100億マルクを出資して補償基金を設置し、2001年に補償支払いを開始したことで1.の問題はほぼ解決されました。
「追憶、責任、未来基金」と名づけられたこの基金は、支払いは個人宛だがポーランド、ウクライナ、ロシア、ベラルーシ、チェコ等の関係国に民間の受け入れ機関が設けられ、人種や国籍に関係なく保証金が支払われる仕組みになっている。
注目すべきはドイツの民間企業が50億マルクを醵出したこと。戦時中の企業は大半が解体されたため、半世紀前の強制労働の責任を問うのは難しい状況だが、戦争とは無関係な企業を含めて、約6,400社から募金が寄せられたという。
グローバル化時代に生き残るためのドイツ財界の決断であった。
2.についてはスイス政府が公式に責任を認め、3.についてはドイツでは統一の際にできた私有化法によりナチス統制下の私有財産の侵害と、戦後の東ドイツによる資産没収を無効として、旧所有者に資産を返却した。
(以上、鈴木輝二『ユダヤ・エリート』より一部要約して)
この1.の補償問題については日本でもNHK・BS1「過去を問われたドイツ企業」で、100億マルクの賠償を決めたドイツ企業と世界ユダヤ人協会、アメリカ司法当局や政府の交渉過程が放送されたそうですが、私は見ていません。
2.については、スイス政府が一定額の補償をすることになったのは新聞等の報道で私も記憶しています。
いずれ日本にも個人補償の問題が浮上してくる。グローバリゼーションのもう一つの軋轢に日本は耐えられるだろうか? と疑問を呈する人もいます。
100億マルクは現在の通貨ユーロに換算するとおよそ51億ユーロ。これを1ユーロ=158.10円で換算すると、実に8063.1億円にのぼります。英断、というべきでしょうか。
100億マルクといっても、現在の通貨価値で1兆円にもなりません。米軍再編のために日本が提供する3兆円のことを考えれば、いかがでしょうか?
「惜しみなく美国は奪う」。戦後一貫して戦争をし続けてきたアメリカへ戦争資金を提供することを考えれば、はるかに意義のあることだと思うのですが。
アメリカにも、そろそろ自立しろ! と促されているのですよ。
政権はいい加減、本気で、補償問題も含めた過去を清算して、「世界の中の日本」像に焦点を定めた戦略を追求してほしいものです。
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